【SVシングル S20 最終256位 最終レート1995】
「燃え尽きる月輪」
TN:roka(メインロムhusky)
【1.はじめに/哀しい予感】
シーズン19で自己最高順位を更新し、今シーズンは300位以内を目標に臨んだ。欲求と現実味がいい塩梅で混ざり合った、本当の目標だった。
大好きなルナアーラとそれが果たせたこと自体は、とても嬉しい。
前シーズンとほぼ同じ構築を握っていたこともあり、今期はプレイングと構築の練度が上がっているのを感じた。連敗があっても、「この構築が根本的に駄目なんじゃないか」という不安に陥ることはなく、調整と対戦を重ねることに前向きになれた。何より、一戦一戦に集中できていた。
そんな順調で充実したシーズンだったのに、いや、だったからこそ、というべきか、終盤ずっと考えていたことがある。
このシーズンで300位以内を達成したなら、俺はそこから次のシーズン、また本気で潜る気になれるのだろうか、と。
それは簡単に言えば、自分が燃え尽きてしまうことへの漠然とした予感のようなものだった。
十年前だったら、「そんなわけないじゃん」と笑えたと思う。「だってこんなにポケモン好きだし」と。
だが、認めたくないが、私はもう若くない。ことによると、300位以内の面々の中では最年長なのではないかと思う。
そのことは別に誇らしくも恥ずかしくもない。
ただ、思うのだ。何かに夢中になれるのも、何かを好きでい続けられるのも、ひとつの能力であって、その能力は年齢と共に衰える、と。
私はずっと、夏が大好きだった。ほとんど病的なほどに。夏以外の私は半分死んでいるのではないかと思うほどに。
七月の半ば過ぎ、あまりの暑さに液体になりかけた妻が、こんなに暑くても夏が好きなのか、という意味のことを私に問うた。
私は少しの間、黙った。
返答に困ったからではない。言葉にすれば、何となく目を背けてきたうすら寒い事実を認めざるを得なくなるからだ。
これ、少し前から思ってたんだけど、と私は言った。
「俺はもう、前ほど夏が好きじゃない」
実際、夏だけのことではなかった。音楽も、映画も、贔屓の野球チームの勝利も、かつてほど自分の心を震わせないことに、ずっと前から気づいていた。
歳をとるとはつまり、そういうことなのだろう。そのことを嘆くつもりもない。ただ、少し胸にひっかかりがあるだけだ。
「今はポケモンにしか興味がないん?」と妻が冗談交じりに言い、そんなわけない、と私は笑った。
「君にはずっと興味があるぜ」と十代の頃なら言えただろうが、言えなかった。
そして、こう考えてもいた。
ねえ、そのポケモンにだって、俺はいつまで夢中でいられるかわからないんだよ、と。
シーズン最後の数日は、文字どおり、魂を込めて潜った。
大好きなGreen Dayの曲に、「I‘m not growing up, I’m just burning out」という歌詞がある。
「俺は成長なんてしていない、ただ燃え尽きていくだけだ」
そうなのかもしれなかった。
SVからランクバトルを始めて、これまで私が遂げてきたつもりの「成長」は全て、ただ、潜る意志が灰になるまでの過程に過ぎないのかもしれなかった。
しかし、燃え尽きるなら、せめて、きっちり燃え尽きなくてはならない。
「もう少し力を抜いて、ゆるくポケモンを楽しめばいいんじゃない?」という声もあるだろう。
でも、そういうことじゃないんだよな。
これは、ランクバトルに真剣に取り組んできた人たちなら、わかってくれるのではないかと思う。
今更ゆるく楽しむには、もう、あまりにマジになり過ぎた。
最終日の明け方、竜の舞を積みながら羽休めで粘ってくる持ち物不明のカイリューに対して、ディンルーでしっぺ返しを連打していた。
午前五時、閉めきったカーテンの隙間から夏の光が細く差し込んでいた。
あまりにマジになり過ぎた。
いい歳になって、これほどマジになれるものが見つかるのは、素敵なことだ。
それは、本当に、本当だ。
私は静かにAボタンを押して、コントローラーを床に置いた。
ディンルーがカイリューをぶん殴って試合は終わった。
求め続けてきたものが、その手に触れた刹那、砂になって指の間からこぼれ落ちてゆくような、哀しい予感がした。
【2.構築の経緯】
毒びし展開偽装眼鏡ルナアーラ構築を使っていたシーズン19の半ばから「これってテラパゴスでも同じようなことが出来るんじゃないの」と考えており、シーズン20で真っ先に眼鏡テラパゴスを試したのだが、序盤からイマイチ勝てず、もう少し粘って色々考えようとしていたとき、大切なことに気づいてしまった。
「俺はテラパゴスの見た目があまり好きじゃない」
というか、あまりにルナアーラが気に入ってしまい、同じことをテラパゴスでやる気にはなれなかった。
ランクマはモチベゲーだ、と言う人がいる。それはひとつの極端な物言いだとしても、一か月という長丁場を、少なくとも自分が好きなポケモンと戦っているのだという事実・実感は、とても大切な支えになる。
それを私に教えてくれたのは、かつてのコノヨザルであり、イダイトウであり、ディンルーだった。
そういうわけで、序盤であっさりテラパゴスを捨て、ルナアーラの新しい型を色々と試した。まず使ってみたのはスカーフ、続いてゴツメ、どちらも私が使うとまるでパッとしなかった。何より、自分が前期で使っていた眼鏡ルナアーラの構築より強いと思えなかった。
そこで、「前期と構築を変えなくちゃいけないなんて誰が決めたの?ていうか320位の記事なんて誰も読んでないだろ」とタカを括って、前期とほぼ同じ構築で潜った。勝ちまくった。
SV新規勢の私は、色々な構築記事で「手に馴染んだ」という表現を読む度に、みんなそんなのあるんだなあ、侍の刀みたいでカッコいいなあ、と思ってきた。
そして、今シーズン、思った。私にとっては眼鏡ルナアーラこそが、「それ」なのではないかと。
②キラフロル → 「毒びし+耐久ルナアーラ」の幻想を見せる構築の顔。
③ディンルー → 対特殊伝説に対して絶大な信頼を置く相棒。
④オオニューラ → 猫騙しからの高速物理エース。
ここまでは、シーズン19とほぼ同じ(ルナアーラの努力値振りを少しだけ変えた)。
⑤連撃ウーラオス → オオニューラが通しにくいときの物理エース。
⑥ヒードラン → 対ザシアン、相手の炎技に対する抑制、選出誘導。
【3.構築のコンセプト】
・毒びし展開の幻想を見せる対面ぶん殴り構築
・私のことなんてきっと誰も覚えてやしないわ
【4.メンバー紹介】
①ルナアーラ@拘り眼鏡
※特性:ファントムガード
※性格:控えめ
※努力値:H239(212)/A×/B114(36)/C206(244)/D128(4)/S119(12)
※技構成:シャドーレイ、サイコショック、ムーンフォース、トリック
※テラスタイプ:フェアリー
構築の軸。全試合、選出した。
シーズン19で使っていたルナアーラとほぼ同じ型だが、遅いウーラオスが増えているという話だったので、少しだけSに振った。
耐久面は、初手で対面したときに水テラスを切って水流連打を撃ってくる殺意に溢れたウーラオスがかなりいたため、鉢巻意地特化ウーラオスの水流連打をファントムガード込みで耐えるラインよりは下げられなかった。環境のポケモンたちの火力と素早さが高すぎて、眼鏡ルナアーラでSに多くの努力値を割くのは得策ではないように感じた。
ステロなどでファントムガードを削られたくないのはもちろん、相手の初手が何であっても最悪はないという撃ち合い性能の高さから、初手に出すことが最も多かった。
眼鏡ルナアーラを2シーズン使い続けて辿り着いた結論だが、このポケモンのキモは初手の技選択、これに尽きると思う。こう書くと「結局噛み合いかよ」ということになり、その要素も多分にあるものの、その噛み合いを、選出誘導を含めて一定の再現性を確保できるラインまで引き上げられたのが今シーズンの結果に繋がったと思う。そういうのを「練度」と呼ぶのではなかろうか。
なお、トリックはほとんど撃つ場面がなかったが、初手オーロンゲを機能停止にしてその後の展開を有利に運ぶのに主に使っていた。こっちとしても苦しいが、そうでもしないと壁オーロンゲがきつすぎた。
私にとってルナアーラ以上に強く使える伝説ポケモンはこの世にいないんじゃないかな、とプロポーズみたいなことをシーズン中何度も考えた。運命を感じるポケモン。
②キラフロル@気合の襷
※特性:毒化粧
※性格:控えめ
※努力値:H159(4)/A×/B110(0)/C200(252)/D101(0)/S138(252)
※技構成:パワージェム、ヘドロ爆弾、大地の力、エナジーボール
※テラスタイプ:草
選出率ぶっちぎり最下位の、構築の顔。
マジで出していないフルアタキラフロル。選出誘導にしても、もう少し別の型があっただろうとは思う。
今シーズンはほぼ対ホウオウ専用兵器と化していた。パワージェムを切って立ち回ってくるナメた不死鳥を瞬殺し、警戒して引っ込む賢明な相手の裏にも、何かしらの技が大体刺さった。ホウオウ構築にはほぼ負けていないが、キラフロルがいなければ勝てなかったかは怪しい。
選出誘導としてもどこまで機能しているかは微妙なところで、特に終盤は何度も外すことを考えたのだが、毒びし展開を想起させることから相手の選出を考えることがパターンとして確立していたため、そのまま顔として睨みをきかせてもらった。
③オオニューラ@ノーマルジュエル
※特性:軽業
※性格:意地っ張り
※努力値:H0/A200(252)/B97(132)/C×/D100(0)/S156(124)
※技構成:フェイタルクロー、インファイト、炎のパンチ、猫騙し
※テラスタイプ:ステラ
前シーズンから続投、不穏すぎるエース。
シーズン18のしゃるさんの構築記事から拝借した。ありがとうございました。
ルナアーラやディンルーに対して相手の黒バドやミライドンにテラスタルを切らせて、オオニューラを通す、という形で主に運用していた。
ステラからの猫騙し+インファイトの火力は尋常ではなく、半端な耐久の相手は抜群でなくとも沈む。
軽業発動後の素早さは、最速テツノツツミ@ブーストエナジー+2に調整されており、ミラーを意識すると準速も考慮に入れたが、諸々の先制技が怖いため耐久もある程度は確保したく、難しいところ。軽業オオニューラミラーでは結構素早さで負けた。
そしてもちろん、「もう駄目だ」というときに「何か起きろ!」と叫んで振りかざすフェイタルクローが、しばしば何かを起こした。
なお、炎のパンチはもともとハッサム対策なのだが、ヒードランを入れたことで相手のハッサムはあまり出てこなくなり、炎のパンチは撃つタイミングが激減したので、アクロバットかシャドークローにした方がよかったと今更ながら思う。
④ディンルー@突撃チョッキ
※特性:災いの器
※性格:意地っ張り
※努力値:H230(0)/A178(252)/B146(4)/C×/D132(252)/S65(0)
※技構成:しっぺ返し、地震、ヘビーボンバー、地割れ
※テラスタイプ:フェアリー
前期からの続投であり、たぶん一番使ってきたポケモン。長きに渡る相棒枠。
体特殊伝説に対しては絶大な信頼を寄せており、ミライドン、黒バドレックス、テラパゴス、ルギア入りの構築に対しては必ず選出した。
物理を相手にする気はなく、Bにはほぼ振っていないが、それでもある程度は硬いのが恐ろしい。
技構成は、しっぺ返し、地震、ハバタクカミやフェアリーテラスタル黒バドを刈りとるヘビーボンバーまでは確定で、あとの一枠はカタストロフィやテラバーストとの選択になるのだろうが、裏に半分の削りを入れられる90%の効率性より、どうにもならないケースで常に30%の勝機を残せる地割れを買った。
テラスタイプは、諸々の抜群を切りつつ、構築に一貫しているドラゴン技をカットできるフェアリー。
⑤ウーラオス(連撃の姿)@こだわり鉢巻
※特性:不可視の拳
※性格:意地っ張り
※努力値:H177(12)/A195(220)/B151(244)/C×/D81(4)/S121(28)
※技構成:インファイト、水流連打、アイススピナー、アクアジェット
※テラスタイプ:水
オオニューラを通しにくい相手に対して選出する物理エース。
シーズン19のふかさんの構築から拝借した。ありがとうございます。
物理との殴り合いに滅法強く、また、グライオン対策も一任していた。グライオンに対しては、後出ししてアイススピナーを押す、という動きが強かった。多くのグライオンがウーラオスを見てコライドンやミライドンに引いてきたため、引き先に甚大なダメージを与えつつ、最悪ゴツメ持ちのヘイラッシャなんかが出てきても、こちらの被害をゴツメ一発分に抑えることが出来る。
当初はS無振りで運用していたが、遅いウーラオス同士のミラーが結構な頻度で発生したため、遅いウーラオスをだいたい抜けるかつ、物理耐久に厚い方がいいと判断して、この型を採用させてもらった。
※特性:炎の身体
※性格:図太い
※努力値:H198(252)/A×/B173(252)/C151(4)/D126(0)/S97(0)
※技構成:噴煙、大地の力、テラバースト、ステルスロック
※テラスタイプ:草
最終日前日に入ってきた、構築のラストピース。これ、ずっと構築記事で言ってみたかった。ザ・ラストピース。
ザシアン専用兵器のつもりで入れた、もらい火詐欺ヒードラン。
今日びヒードランなんてもらい火でコライドンを受けるやつばっかりだろ、という傾向(シーズン20は94.6%がもらい火だった)を逆手にとって、噴煙と炎の身体で何としても火傷させようとしてくる、火傷の化身にして、火傷の権化。ダサい。最終日だけでも、ザシアンをはじめ、連撃ウーラオス、日食ネクロズマ、と数名の火傷被害者を出した。
鬼火を採用せずに攻撃しながら火傷のリスクを与える以上、もう少し火力に振ってもよかったのかもしれないが、正直考える時間がなく、HB特化。
最大の功績は、相手の選出と立ち回りにプレスを与えたことだったと思う。もらい火詐欺のヒードランが構築にいることで、例えば、相手の鉢巻コライドンが初手から炎テラスタルフレアドライブを撃ち込んでくる、みたいなこと(これが実はすごく困る)はまず出来なくなるし、炎テラスタルコライドン+イーユイみたいな選出(これも困る)もされにくくなるし、炎オーガポンも出されにくくなるし、ルナアーラと対面したイーユイが普通なら無難に火炎放射を撃ってくるところを悪の波動を撃ってくる(ディンルー引きが安定する)、という具合である。そういう意味では、キラフロルと並んで、この構築のもうひとつの顔だったとも言える。
本当はもっと選出してあげたかったし、その機会もあったのだろうが、その判断能力が私になかった。
【5.重いポケモン】
①パオジアン
→こちらの構築の足が遅いこともあり、怯みや絶対零度をしょっちゅう上から押しつけられるのが本当に恐ろしい。カッコいいけど最悪のポケモンだと思う。
②テツノワダチ
→ルナアーラとの相性が悪すぎる。はたき落とすで大ダメージを食らうわ、テラスを切ったらアイアンヘッドでやられるわ、オオニューラに引いたらテラスを切られてインファイトを耐えられ地震で倒された挙句、次のポケモンにがむしゃらを押しつけるかルナアーラが一発もらうかしかなくなる。もうネーミングセンスからして恐ろしい。
③速いカイオーガ
→キラフロルがエナジーボールを一発しか打てないときつい。あと、カイオーガ+イダイトウという構築がどうにもならなかった。
【7.終わりに】
SVからランクバトルを始めて、一年半ほどが経過した。
いい歳になって、ここまで熱くなれるものが出来た幸運には、これ以上ないくらい、感謝している。
自分の中にまだ燃えられるものが残っているのか、今は、わからない。
それがあることを、今は願っている。
俺は少し、疲れたよ。
最後まで読んでくれたなら、ありがとうございました。