【SVシングル S10 最終889位 レート1910】イダイトウ心中

【SVシングル S10 最終889位 最終レート1910】

「イダイトウ心中」

TN:husky

 

【1.構築の経緯】

※この構築の経緯はフィクションです。

私が好きなThe Birthdayというバンドの曲の中に「なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする」という歌詞がある。
そんな日だった。
空は、この世に飢餓や戦争やオニゴーリなどあってはならないとでも言いたげに美しく晴れ渡り、シーズン9で「もう二度と三桁なんてとれないんじゃないか」という呪縛から逃れた私は、九月の涼やかな空をそのまま映したような心で、グラススライダーの解禁発表にもめげず、シーズン10もイダイトウと共に戦う決意を固め、今までになく順調に構築を編み上げていた。
Xの不穏な知らせが、それを切り裂くまでは。

「オーガポン ランクバトルで使えて草」

私は階段を下りたポルナレフ並みに何が起こったかわからなかった。
最初に思ったのは「いや、バグだろ」ということだったし、実際、今でもバグだったのではないかと思っている。

その後、公式からわけのわからない発表があった。
その発表の真偽はもう、どうでもよかった。
バグを後から仕様だと言い張るなら不誠実な嘘吐きだし、本当に仕様だというなら公式は狂人の集まりである。
私はポケモンというゲームが好きだし、感謝もしている。
だから、多少の瑕疵には寛容でありたいし、大っぴらに非難もしたくない。
しかし、今回ばかりは怒りに震えた。

DLC解禁の日、私は深夜に帰宅して、襷を肩にかけた(たぶん肩ないけど)うちのイダイトウに語りかけた。
「残り二週間くらい、荒れたシーズンになるんだろうな。混沌の内にシーズンが終わる気がする。そんなのが、公式の望んだことだったのかね。何かもうさ、馬鹿らしくなった。だから…」
今シーズンは捨てようかな、という言葉を、私は飲み込んだ。
沈黙する私の前で、イダイトウは何も答えず、尾びれを振り続けていた。
その尾びれは、激しい流れに逆らって川を上るためにあるのだった。

シーズン9の自分の構築記事で、私は書いていた。
「イダイトウというポケモンは、川を上る旅の途中に志半ばで散った仲間の魂をまとうのだという。報われることなく構築から消えていった数多のポケモンたちと、胸を熱くするたかがゲームに出会えた幸運にときどき思いを馳せながら、私は激しい流れに抗っていきたい」
何かこれ、ちょっと予見的である。

私はイダイトウに微笑みかけ、「人間の世界には」と言った。
「心中、という言葉がある。それは要するに、共に死んでしまおう、という行為を指す。けど、ときどき、野球なんかで言うんだよ。ピンチになって、それでも投手を代えないときに、『この試合はエースと心中ですね』なんて。それは、死ぬことが目的じゃないんだ。後悔せずに生きのびるためにその道を選ぼうとする場合も、人間はときどき、心中、って言葉を使うんだよ。おかしいだろ」

※深夜に決意を固めた私とイダイトウ

こうして、その後何やかんやあって、構築が完成した。

イダイトウ心中である。

 

【2.構築のコンセプト】

前提:対面で殴り勝つ(サイクルを回す技量が私にはない)。

○エースのイダイトウを強く通す。

○相手に軽々にステロを撒かせない。

○イダイトウ以外にテラスタルを使いたい放題使う。

○イダイトウが通せないときのプランBをきちんと用意する。

 

【3.真面目な構築の経緯】

シーズン9同様、イダイトウをエースとして強く通す構築を目指した。
そのために、相手に軽々しくステロを撒かせないことが必要だった。
当初の初手枠として、フェアリーテラスタル込みで広い対応範囲を持ちつつ、「悠長にステロなんか撒いてる場合じゃあないな」という圧力をかけられるイーユイ。
これは、イダイトウと合わせてシーズン9からの続投だった。

次に、パオジアンに有利に対応できる、かつ、連撃ウーラオスに一泡吹かせられる枠として、HBベースのビルドレコノヨザルをイダイトウに代わるプランBのエースとして採用した。

ハバタクカミやテツノツツミに対しては、前シーズンはヒスイヌメルゴンで見ていたが、ヌメルゴンは「安定はするけれど怖さに欠ける」というポケモンである気がして、選出機会を作れなかった。そこで、見た目からして怖いドドゲザン@チョッキを採用した。

この四体に加えて、カイリュー、サーフゴー、ボルトロス、岩オーガポンなどで、最終日付近まで潜っていた。

が、最終日二日前くらいにパッタリ勝てなくなり、特に積みの起点を作られて負けるパターンが多かったので、頼むからそんなに積まないでくれという祈りを込めて、選出誘導のつもりでヘイラッシャを採用した。

最後の化身ランドロスは終盤で二回当たって二回ともボコボコにされ、「あのポケモンなあに?」と思って最終日に入れたが、これがかなり活躍した。

また、あくまで結果的にだが、イーユイ、ドドゲザン、イダイトウ、ランドロスという並びになったことで、相手のサーフゴーが極めて出てきにくい構築になった。
よって、相手にサーフゴーがいるときは「5体の内から3体」を基本に考えていけばよくなり、これがわりと助かった。

 

【4.メンバー紹介】

①イダイトウ@気合の襷
※特性:適応力
※性格:意地っ張り
努力値:H0/A252/B4/C×/D0/S252
※技構成:アクアブレイクアクアジェット、お墓参り、がむしゃら
※テラスタイプ:水

2シーズン続けて構築のエースを張った魚の亡霊。

イダイトウ@襷は、シーズン9でいっきにスターダムにのし上がり、あまりに有名になってしまった。
一言に「襷イダイトウ」といっても、がむしゃらを採用しているのか、高速移動や身代わりを採用しているのかで対処の方法が異なるため、完全に一点読みで対応されるというわけでもない。
ただ、本質的には、「わかっていても止められない」という種類の破壊力と、テラスタルを切らなくても強いという使い勝手のよさが強みかと思う。

前期同様、イダイトウの襷を残すため、構築単位でいかに相手のステロ展開を抑止するか、ということに腐心したが、相手は相手で何とか襷を潰そうとしてくるわけで、そのせめぎ合いが最初から最後まで続いたシーズンだった。

単体で雑に使って強い、というポケモンではなく、構築単位での通し方を作ることと、イダイトウが通せないときのプランBを用意できるか、ということが重要なポケモンである気がした。

テラスタイプは水。シーズン中の数日間、ドラゴンテラスタルからのスケイルショットを試してみたが、あまりうまく使えずにボツになった。

構築の軸でありながら、通せる機会はシーズン終盤にかけて減っていった。ただ、今シーズンつくづく思ったのだが、シーズン一か月という長丁場を安定した精神状態で乗り切るためには、調子のいいときも悪いときも、病めるときも健やかなるときも、「好きなポケモンを信じて使っている」という事実は、とても大切な支えになる。
シーズンの最初から最後まで、イダイトウと戦い続けることが出来て、とても楽しかった。

 

②イーユイ@こだわりスカーフ
※特性:災いの珠
※性格:控えめ
努力値:H0/A×/B4/C252/D0/S252
※技構成:悪の波動、噴煙、オーバーヒート、テラバースト
※テラスタイプ:フェアリー

厳選の概念すらない強運の妻が貸してくれたA0金魚。前シーズンからの続投。

ラスタルを切る前提であればほとんどの相手に対して不利をとらないのと、相手に「ステロ撒いてる場合じゃない」という圧を与えるため、シーズン前半は初手で投げることも多かった。
相手の裏を見つつ一貫する技をぶっ放す、というシンプルな運用で、わかりやすくて大変よろしい。

個人的な今シーズンの成長ポイントとして、相手の持ち物を選出段階でかなり集中して検討するようになったことがある。ランクバトルの諸先輩方からは「お前今までそんなことも考えずに潜ってたのかよ」と笑われるかもしれないが、まあ、程度の問題として。例えば相手の構築にイダイトウがいて、コノヨザルやガブリアスがいるという場合、「どうせイダイトウが襷だろ」と割り切って、初手のコノヨザルやガブリアスにステロを撒く隙を与えずにイーユイのテラバーストで吹き飛ばす、という具合である。

上から高火力を押しつけつつ、火傷や怯みのリスクを与えるのも凶悪で、炎技を受けにきたカイリューが火傷して終わる、というような展開も少なくなかった。
また、準速スカーフで、イーユイミラーでの勝率も悪くなかった。

ネックは、だいたいのハバタクカミに対して撃ち負けてしまうこと。初手で合わせられると結構ヤバい上、構築的に初手でハバタクカミを投げられることが非常に多く、おまけに初手の電磁波ハバタクカミが大流行したせいで、次第に先発をドドゲザンに譲って裏から出てくることが増えていった(それはそれで強かった)。

前シーズン同様、基本的には「全てがイダイトウに収束する」という直線的な構築だったので、構築のコンセプト的に、イダイトウと相性のいいポケモンだったと感じる。

 

③ドドゲザン@突撃チョッキ
※特性:負けん気
※性格:意地っ張り
努力値:H252/A252/B4/C×/D0/S0
※技構成:ドゲザン、不意討ち、アイアンヘッド、テラバースト
※テラスタイプ:フェアリー

今シーズン最多出場、計り知れない貢献をしてくれた極悪非道枠。

ハバタクカミやテツノツツミを暗殺する役目を担い、当初の予定とは違ったが、初手の電磁波ハバタクカミの蔓延とこちらの構築的な問題により、最終的にはほぼ初手で投げていた。

ブーストエナジーのハバタクカミは余裕だし(電磁波を入れられても元が遅いから何もなかったふりをしていた)、C特化メガネのムーンフォースすら余裕で耐える。

撃ち合い性能の高さは言うまでもないが、ハバタクカミを相手するポケモンとして、負けん気の存在が脅威である。ムーンフォースでCが下がることはしょっちゅうあり、それだけで大変なことになる。

テラバーストは、相手のハバタクカミが引いた後に出てくる相手に抜群をとれることが多く、ドドケザンが削れても後のハバタクカミの処理に問題なし、という展開のときは積極的にテラスを切っていた。

初手のドドケザンはステロ撒きにも見えるせいか、相手が悠長に挑発してくることも稀にあり、その度に私は「フハハハハ!」と他では使わない笑い声を上げながらイージーウィンをもらっていた。

 

④コノヨザル@食べ残し
※特性:精神力
※性格:腕白
努力値:H228/A4/B236/C×/D4/S36
※技構成:憤怒の拳、ドレインパンチ、ビルドアップ、挑発
※テラスタイプ:水

「パオジアンを何とかしろ」という任務を負った猿の亡霊。イダイトウが通せないプランBのエースを担う。客観的にはおそらく今シーズンのMVP。

シーズン1からの通算で、私が一番使い込んできたポケモンは多分、コノヨザルである。襷、電気玉、スカーフ、チョッキ、色々なコノヨザルを使ってきたが、今回の型はかつて最高順位をとったシーズン4で使っていたのと全く同じ個体である。もう調整意図は覚えていないが、強い。ハマったらマジで手がつけられない。

速い相手には耐えて殴る、遅い相手には上から積むか挑発、というのが基本的な動きで、常にアンコールに怯えながらの立ち回りになるため、積むか殴るかの選択が肝になるが、コノヨザルに限って言えば、相当な練度に達した自信がある。

環境にうちのコノヨザルより遅い耐久型のカイリューが多かったこともあり、大活躍した。対パオジアンに特化するならば素早さを無視して耐久に振ってもよかったが、遅いカイリューがどこまでセーフかわからず、そのまま使い続けた。

テラスタイプは水。連撃ウーラオスと炎オーガポンのどちらを重く見るかで迷いながら使っていた。初手ドドゲザンが連撃ウーラオスと対面してしまった場合、コノヨザルに引いて水流連打を受けると、半分弱のダメージが入る。その時点で憤怒の拳の威力がえらいことになっているので、相手は十中八九、水テラスタルを切って確実にコノヨザルをしとめにくる。そこに水テラスタルを合わせる、というのが、抜群を切る以外では主な使い途だった。

なお、実は構築単位で茸の胞子が滅茶苦茶ヤバいのだが、コノヨザルがいかにもやる気のありそうな顔をすることで誤魔化していた。

最終日の午前8時45分に始まった最終戦、よりによって苦手の受けループに当たってしまい真っ青になったが、毒びしの毒に冒されながらもドヒドイデクレベース、ラッキーを一人でなぎ倒して三桁に導いてくれたこの怒れる霊長類のことを、私は永く忘れないだろう。

 

ランドロス@命の珠
※特性:力ずく
※性格:臆病
努力値:H0/A×/B4/C252/D0/S252
※技構成:大地の力、ヘドロ爆弾、サイコキネシス、悪だくみ
※テラスタイプ:毒

私にとって謎の化身。最終日のみだが、かなり活躍した。

私は化身ランドロスのことを何も知らなくて、最終日前日に二回対戦して、二回ともボコボコにされ、何だこれ強いじゃねえか、と思って構築に入れたら、普通に強かった。

使用率88位。謎。マジで信じられない。きっと私の知らない弱点があるのだろうが、とにかく強かった、としか言えない。

地面と電気の一貫性を同時に切れる、安定した高火力、命の珠の反動がないという意味不明な仕様、まあまあ速い、まあまあ硬い。このまあまあが駄目なのか?うーん、わからん。

誰か教えてほしい。

 

⑥ヘイラッシャ@ゴツゴツメット
※特性:天然
※性格:腕白
努力値:H252/A0/B252/C×/D4/S0
※技構成:地割れ、欠伸、眠る、寝言
※テラスタイプ:フェアリー

最終日だけ入ってきた祈りの鯰。

私はシーズン2から4でフルアタの突撃チョッキヘイラッシャを使っていたが、真っ当なHBのヘイラッシャをあまり使ったことがなく、最終日にいきなり使いこなせるとも思えなかったので、そもそも選出しないつもりで入れた。対面構築の宿命と言うべきか、積まれて負ける(特にカイリューガブリアス、ウーラオス、トドロクツキ、オーガポン)展開が多かったので、それを少しでも抑止すべく、「頼むからそんなに積まないでくれ」という祈りを込めて御守りとして採用した。実際どれくらい効果があったかは、わからない。

ヘイラッシャ初心者の目線でも「これはさすがにヘイラッシャ出した方がいいのでは」という試合だけ、最終日60戦くらいしたうちの確か5戦だけ出して、4勝1敗だった。もっと出したらよかったのかもしれないが、その自信はなかった。

 

【5.重い相手】

○キノコ関連
→実はこれがマジでヤバいのだが、コノヨザルがやる気ありそうな顔をしてごまかしていた。
オーガポンとゴリランダーが強い環境で、キノガッサなんて絶滅危惧種になるだろ、とタカをくくって、ある程度は切っていた。

○炎オーガポン
→準速なら化身ランドロスで上からヘドロ爆弾、最速ならコノヨザルで何とかならないこともないが、そんなのわかんねえもの。

絶対零度パオジアン
ポケモンというゲーム、これだけ多くのキャラクターがいながら対戦のバランスが破綻していない、というのは本当にすごいと思っている。
だから、このポケモン強すぎとか弱すぎとか、あまり言いたくない。
だが、パオジアンに絶対零度を与えたことだけは、間違いだったのではないかと思う。


【6.終わりに】

それなりに納得のいく結果だったが、公式への不信感にまみれた、嫌なシーズンだった。

SVで初めてランクバトルに参加した私は、幸運なことに、これまで公式への不平不満というのはほとんど感じたことがなかった。
そういう意味で、今までは子どものようにポケモンを楽しんできた。
よく聞く公式への非難の最たるものとしてテラピース集めがあったが、それに対してすら、私は特段の不満はなかった。
面倒臭いけど、トータルとしてこんなに楽しいんだから、まあいいじゃん、と思っていた。
私は、他人の過ちに対して出来るだけ寛容でありたいと思って生きている。
許すとか許さないとかの判断も、他人に対して極力したくない。
自分がろくでもない過ちを犯しながら生きている自覚があるからだ。

だが、今回の件に関しては、過ちの種類が違う。
真剣に対戦に取り組む人間をなめているとしか思えなかったからだ。
私はポケモンが好きだし、マジになれるものをくれた公式には、感謝もしている。
判断を間違えるのはしょうがない。
けれど、ハートは間違っちゃいけない。

精神年齢の低い私は、十代の頃から今に至るまでGreen Dayが好きで、今でもずっと聴いている。
年齢がばれるが、私が大学生の頃、American Idiotというアルバムが出た。
イラク戦争を巡って、多くのメジャーなバンドが沈黙する中、当時のブッシュ政権を露骨に非難する曲が並んでいた。
そのアルバムを引っ提げたライブの中で、ボーカルのビリー・ジョーが叫んでいた。
「This song is not anti America. It's anti war!!」
(これは反米の歌なんかじゃない。反対してんのは、戦争だ!)
それを見たとき、嗚呼、この人はアメリカを愛しているんだな、と思って、胸が熱くなった。

大好きだからこそ許せないことも、あるんだよ。

それを声高に叫ぶのは、最低限の結果を残してからにしたかった。
今シーズン、よかったことは、それだけだ。

最後まで読んでくれたなら、ありがとうございました。